ふわりと、
棚引く純白を汚さぬようにと摘みあげて、
慣れない「歩く」という行為に意識を奪われる。
薄布と共に頭を飾った花がずれていないかを
通り沿いに並ぶ店先の硝子で確認して、
赤いヒールを鳴らして石畳の街を進んで、湖へ。
(この先、きっとこんなもの着ることはないからね)
真っ白いベールに真っ白なパレオ。
彩り豊かに花を添えて、本当の色を隠す。
ブーケはない、持つ必要なんてない。
誰かに引き継げるような幸福は持ち合わせていない。
それでも憧れた。
きみに――ああ、もう名前なんて覚えてもいない――また誉めてもらいたいから。
似合ってるね、可愛いよ、と。でもまだ遠くに行かないで、と。
(ああ、なんて名前だったっけな――)
ま、いいや、と投げ捨てる。
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