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TW2、TW3内にて活動中の若干うざったらしい性格の連中がそろい踏みするブログ。要注意。
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今のところ胡華とクレヴィーの性格を足して2で割ったような存在。
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そして、魔女は倒され。
その背後に蠢いていた悍ましきものは撃ち滅ぼされた。
世界に平和が訪れて、人々はみな幸せに暮らしました。


めでたしめでたし。




少女の姿をしたそれはソファーに身を沈め、天井を見ていた。
部屋は内装や調度品こそそれなりのものが揃っているが、見上げる天井は所々赤黒く変色し、
吊り下げられた小さなシャンデリアにも汚れがこびりついている。
その汚れの量からこの場所で何があったかは大体予想はできる。
――ワケありの格安物件なんてこんなもんか。

それは花瓶から引き抜いてきた一輪の薔薇をくるくると回した。
朝方劇団員の少女から分けてもらった薔薇は
刺を取られた真っ直ぐな茎の上、誇らしげに毒々しいほど真っ赤な花を戴いている。
まだ瑞々しい花弁に唇を寄せると、食む。

それ――クイスリングは雑食で悪食だが少食だ。
成長が完全に止まってしまった身体が過去の反動のように無差別に栄養を求める反面、
胃は過剰摂取に耐えられないほど虚弱で消化が遅い。
そのくせ本人のおぞましい偏食の影響で食べられるものも限られていた。

また、一度に多くを食べることはできないかわりに、継続して少量を食べ続ける事ならできる。
結果、それは腹に余裕があるかぎり何かしらを食べ続けるようになっていた。

『ほんと、この身体やんなっちゃうよ』

少年らしい高過ぎない声が一室に漏れ出す。
文句を言いつつ、しかし空腹に堪えかねて赤い花弁を噛み千切る。
部屋には誰もいない。誰も訪れることはない。
その小さな部屋はクイスリングだけの秘密基地のようなものだった。
終焉を終焉した今の今まで、誰も立ち入らせたことのない部屋だった。
以前所有していた小さな旅団とも違う、閉鎖的な空間。
ほんの12年前まで閉じ込められていた自分の部屋と似た空気をしていた。

クイスリングにも親しい人間たちはいる。
愛する人と結ばれた者、行方の知れない者、帰りを待つ者、エトセトラ。
過ごした年月の長さに比例して増してゆく愛情は、
あらゆる形で彼に、或いは彼女に惜しみなく注がれていた。
かつてのクイスリングからは想像できないほどに。
それでも彼らをこの場所には招くことが出来なかった。
心のどこかでおびえていたのかもしれない、と一人思う。

(全部終わった。ぜんぶぜんぶ、なにもかも)
(世界はエバー・アフターで満ちて、皆幸福になる)
(可愛い娘も素敵な恋人を見つけたし、心残りは――)

ない。
そう言いたかった。が、言い切れなかった。
鍵を預かったままの研究所に、本来の主は帰ってきていない。
また再び、そう約束したはずの場所をよみがえらせてもいない。
何処かで生きているはずの兄姉達も見つかってない、復讐できてない。

――ボクはまだ、幸せになってない。

そもそもクイスリングは、己の幸福が如何なるものかを考えたこともなかった。
『魔女とは他者を幸福にする代償に、その身を滅ぼす者』
己はそれだと思い生きてきたがゆえに、幸福を望もうとしていなかった。
事実、大魔女スリーピング・ビューティーは倒され、世に平穏が訪れた。
彼女が盲信してきた理念は眼前で形を成していた。

にもかかわらず、ついに彼女は己の幸福を望むようになっていた。
これは彼女にとって良い変化であったのだが、本人は全く気付いていない。
己の幸福を願おうとしたことにクイスリングは自己嫌悪に浸る。

「――やんなっちゃうよ、ホント」

作りものではない、掠れて嗄れた本来の声で呟き、
クイスリングは残った薔薇を握りつぶした。



※ ※ ※ ※

例えるなら、百年の眠りを覚ますような出逢い。
例えるなら、黄泉の国まで追い求めるような恋情。
この身を焼き尽くし、燃え尽くすような甘い甘い、感情。
2年前の戯れのような、ありきたりな幸福が欲しいの。
あの日きみが言ってくれた言葉を、今のボクなら受け入れられるから。
しあわせになりたいの。
帰らぬきみを待ち侘びよう、きみが願いを告げる日を待ちわびよう。
ボクの命は哀しい哉、当分尽き果てそうにも無いのだから。
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